48 夏の朝

朝早くに坂道を歩く
ことりちゃんが、朝ごはんをごちそうしてくれるっていうんだ
まだ7時前で、坂道はセミの声であふれている。あんまり大きな声だから、ヤマモモの林が揺れているみたい

今朝は5時に目が覚めた
いつもは起きるのが7時すぎだから、2時間早い
30分ぐらい片づけしたりそうじをして、20分体操、それでもまだ6時前だった
開けた窓から朝の空気が部屋に流れてくる。深呼吸して夏の朝をおなかに入れる
バックに麦茶の水筒とタオル、ことりちゃんにすもものお土産を3つ持つ

途中、コップさんが庭の朝顔に水やりしているのに会った
雨水を集めたポリタンクからじょうろに入れて、たっぷり水をまいている
今朝は早いんだなあってコップさんがいう。早起きしたんだね
朝顔きれいですね
今年もすばらしいよ、この花の色がさ、いいんだよね
コップさんは、地面にも葉っぱにも、花にも水をあげる
ヘブンリーブルーっていうんだ、こんな水色好きなんだ
じょうろはゆっくり動いて、水がきらきらしながら落ちていった
種ができたら少しわけてくださいっていったら、コップさんはすごくにっこりして、オッケーっていった

坂道を登りきるとことりちゃんちだ
そして、ごちそうの朝ごはんはゆでたてのとうもろこし!
庭の小さなテーブルのカゴに盛られたとうもろこしは、ぴかぴかして金色をしている
夏の朝は、空も空気も、じょうろの水も朝ごはんもみんなきらきら光っている
花壇の草とりをしたワッフルさんとことりちゃんと3人で、おいしい朝ごはんいただきます

47 干しぶどう

雲が暗くなって、風が吹き始めた
夕立がくるぞってコーヒーゼリーさんがいそいでいる。雷の音が遠くできこえてきて、さらに早足になった
実は雷が苦手らしい

ぼくも家にもどって洗濯ものを取り込む。一緒に、干していたぶどうも入れる
ぶどうは干して3日たった。紫色だったかわいい粒は、茶色でしわしわになってきた

くつ下を干すまるい洗濯ハンガーにデラウェアをさげたんだ
1枝10粒ぐらいを糸で結んで長くして、縦に5つ6つつなげてハンガーの洗濯ばさみにつけた
風が吹くと、みんな少しずつ揺れる
ざるに広げるよりなんだか楽しそうなのよって、まりくちゃんが教えてくれた
できあがったら散歩に持っていこう

このごろは暑いから、夕方遅くか夜、棒パンと海まで行く
月が大きくなるときは、空は白く光って明るい
夜の海は、昼より波の音が大きくきこえる
ざーん  ざーん
ざーん  ざーん
繰り返す波の音を数えて、歌をうたったり(上を向いて歩こう)、砂浜にひっくりかえったりするんだ。砂はまだ昼の暑さを覚えていて、すごく気持ちがいい

46 ジューススタンド、その後

7月になったら、暑い晴れの日が続くようになった
今年はジューススタンドは、夏至のあと1週間続いてそのあと閉店、スタンドうしろの赤青白のビーチパラソルはたたまれて、しーちゃんちの倉庫にもどった

チームソーイングは、ひとまずコップさんの家に移動だ
ミシン1台、人員1人(コップさん)で、しばらくは注文をこなす

工房のイメージカラーはみどりに決まった
コップさんの家は、夏になると全体がみどりになる。日よけ対策で、家のまわり中の草が勢いよく背を伸ばすんだ
東側玄関横には朝顔、強い日差しの西側には元気なゴーヤ、南には立派なヘチマ棚が組まれて影をつくる
北側はローズマリーとアロエが植えられて、もう随分大きくなっている

仕事を始めるにあたり、コップさんは裁縫用の大きな机をジョッキさんに手伝ってもらって作った
ジョッキさんが机の裏に、美しく 丁寧に って書き込んだ
仕事の基本ですねってコップさんがいった

トマトちゃんは焼き菓子屋さんにもどって、お菓子を焼いたりゼリーを作ったり、シャーベットを凍らせている
新商品のマスタードラスクを試食させてもらったら、すごくおいしかった。がりがりがりがりいい音がして、甘くなくて、暑い季節には特によさそうだ

棒パンは気に入って、毎日これを食べて暮らしたいっていいだすほどだ
ツリーハウスできたら、このラスクを持って泊まることにしようっていっていた
カンパンさんも、トマトちゃん、これおいしいよって音をたてている
ビールで乾杯して、このマスタードラスク…
カンパンさんは目をつぶって味を確かめて、すばらしいなあってうなずいた
トマトちゃんは嬉しそうにみんなの話をきいている

45 風船

そして、ぼくにスペシャルなことがあった

もりちゃん(しーちゃんちの3番目のお姉ちゃん)が、家から小太鼓を持ってきてくれたんだ
もりちゃんは、小学生のとき学校の鼓笛隊に入っていた。そのとき使っていた太鼓をくれるっていうんだ
ベルトもあったから持ってきたわ
白いベルトには銀いろの金具がついている
こうやってつけるでしょう
もりちゃんが手伝ってくれる
それで、ここに太鼓をかけると、ほら、たたきながら歩ける
ぼくは、演奏だけじゃなくて、行進にも参加できるんだ
棒パンが、すごいな、小太鼓の聖者だねっていった

演奏は、コーヒーゼリーさんのドラムで始まった
トマトちゃんのトランペットの音が、広場の空にぬけていく
トマトちゃんの吹くトランペットは、トマトちゃんと同じくらい元気のいい音だ。明るくてきらきらしている
しーちゃんとまきちゃんはクラリネットの楽しい音を重ねる。2人の音がスキップしたり、とんだりはねたりして遊んでいる
ベーグルさんのサックスはかっこいい。トマトちゃんのトランペットの音をきいてそれにあわせているんだけど、それがベーグルさんっぽい音なんだ
もんちゃん先生は、腕にみずいろの風船をつけたままトロンボーンを吹いている。先生がなかでも一番嬉しそうだ

コーヒーゼリーさんが、始まる前に、音を感じて太鼓をたたいてごらんっていった
音と楽器と、曲の流れとか空気とか雰囲気を、体全部で感じるんだよ。耳できいていたら間に合わないから、いっぺんに全開にしてね
ぼくはだから、みんなの演奏する音をきいて目をつぶる。深呼吸して、コーヒーゼリーさんから譲り受けたバチを握った
いっぺんに全開にするのってどんな感じだろうと思ったけれど、やめた
たぶん、思っていたりしたら、ほんとに間に合わないんだ。入ってしまおう、この場所のこの時間の全体に入ろう。思うんじゃなくて入っちゃおう

ゆきちゃんとお友だちはバトンをまわして踊った
ガードの人たちはフラッグを高く投げた
ことりちゃんは、広場のオリーブの木にとまったりぼくの肩にとまって歌った
カンパンさんとジョッキさんは、ステップを踏んで行進した
にゃん一郎くんとこまりちゃんは、広場にならんで座って、足で地面をならした
コップさんは、スズメさんの子どもたちと演奏のまねをしながら歩いた(トランペットが一番人気)
棒パンとワッフルさんは、残っていた風船を放った
赤や白やきいろの風船は空に高くあがって、風にのって海のほうにとんでいった  

44 勢ぞろい

しーちゃんには、4人のお姉ちゃんがいる
1番上が、今日しーちゃんと一緒にクラリネットを吹いたまきちゃん。いつもは図書室で司書の仕事をしている
2番目がバトンの上手なゆきちゃん
絵を描くことちゃんは順番でいくと4番目で、3番目はもりちゃん。もりちゃんとことちゃんは双子なんだ
もりちゃんはソムリエになりたいんだって。今はフランス留学をめざして、街の紅茶屋さんでアルバイトしている

もりちゃんは、紅茶屋さんのバイトがおわってから自転車に乗って広場にやってきた
しーちゃんが、クラリネットちゃんと吹けたよってもりちゃんに話している
もりちゃんはかけていたサングラスをはずして、さっすがーっていって、しーちゃんの肩を抱いた
しーちゃんは嬉しくて、うふふって笑った

もんちゃん先生はみず色の風船を左腕にくくってもらっている。右手にはかき氷のカップを持っている
ワッフルさんがもんちゃん先生に、もう少ししたらチューバが届く話をする
ボクのバンド、今、金管が人数少ないんだよ。よかったら一緒にやらない? ってもんちゃん先生がいう
ワッフルさんはすごく大きな声で、はいって答えた。それは喜んだふうだった
楽器なくていいから、まず練習見学にいらっしゃい
ワッフルさんは、練習場所や時間を教わった

ぼくと棒パンが、あとふたつになったジャムの店番をして座っていたら、それ両方ちょうだいっていう
顔をあげると、そういっていたのはなんと、ジョッキさんだった
ジョッキさんはカンパンさんの古い友人で、詩人で、旅行家だ
いろんなところを旅してまわって、毎年大抵、夏前の今ごろ、カンパンさんに会いにここにやってくるんだ
山を登り海に潜り、広がる砂漠を渡る。おととしは、スペインの巡礼の道を歩いた

ジョッキさん!
棒パンとぼくは、声をそろえて立ちあがった
カンパンさんがローラースケートをならして近づいてきて、おージョッキさん!って握手した
もんちゃん先生も近づいてきて、聖者が勢ぞろいしたぞっていった