45 風船

そして、ぼくにスペシャルなことがあった

もりちゃん(しーちゃんちの3番目のお姉ちゃん)が、家から小太鼓を持ってきてくれたんだ
もりちゃんは、小学生のとき学校の鼓笛隊に入っていた。そのとき使っていた太鼓をくれるっていうんだ
ベルトもあったから持ってきたわ
白いベルトには銀いろの金具がついている
こうやってつけるでしょう
もりちゃんが手伝ってくれる
それで、ここに太鼓をかけると、ほら、たたきながら歩ける
ぼくは、演奏だけじゃなくて、行進にも参加できるんだ
棒パンが、すごいな、小太鼓の聖者だねっていった

演奏は、コーヒーゼリーさんのドラムで始まった
トマトちゃんのトランペットの音が、広場の空にぬけていく
トマトちゃんの吹くトランペットは、トマトちゃんと同じくらい元気のいい音だ。明るくてきらきらしている
しーちゃんとまきちゃんはクラリネットの楽しい音を重ねる。2人の音がスキップしたり、とんだりはねたりして遊んでいる
ベーグルさんのサックスはかっこいい。トマトちゃんのトランペットの音をきいてそれにあわせているんだけど、それがベーグルさんっぽい音なんだ
もんちゃん先生は、腕にみずいろの風船をつけたままトロンボーンを吹いている。先生がなかでも一番嬉しそうだ

コーヒーゼリーさんが、始まる前に、音を感じて太鼓をたたいてごらんっていった
音と楽器と、曲の流れとか空気とか雰囲気を、体全部で感じるんだよ。耳できいていたら間に合わないから、いっぺんに全開にしてね
ぼくはだから、みんなの演奏する音をきいて目をつぶる。深呼吸して、コーヒーゼリーさんから譲り受けたバチを握った
いっぺんに全開にするのってどんな感じだろうと思ったけれど、やめた
たぶん、思っていたりしたら、ほんとに間に合わないんだ。入ってしまおう、この場所のこの時間の全体に入ろう。思うんじゃなくて入っちゃおう

ゆきちゃんとお友だちはバトンをまわして踊った
ガードの人たちはフラッグを高く投げた
ことりちゃんは、広場のオリーブの木にとまったりぼくの肩にとまって歌った
カンパンさんとジョッキさんは、ステップを踏んで行進した
にゃん一郎くんとこまりちゃんは、広場にならんで座って、足で地面をならした
コップさんは、スズメさんの子どもたちと演奏のまねをしながら歩いた(トランペットが一番人気)
棒パンとワッフルさんは、残っていた風船を放った
赤や白やきいろの風船は空に高くあがって、風にのって海のほうにとんでいった  

44 勢ぞろい

しーちゃんには、4人のお姉ちゃんがいる
1番上が、今日しーちゃんと一緒にクラリネットを吹いたまきちゃん。いつもは図書室で司書の仕事をしている
2番目がバトンの上手なゆきちゃん
絵を描くことちゃんは順番でいくと4番目で、3番目はもりちゃん。もりちゃんとことちゃんは双子なんだ
もりちゃんはソムリエになりたいんだって。今はフランス留学をめざして、街の紅茶屋さんでアルバイトしている

もりちゃんは、紅茶屋さんのバイトがおわってから自転車に乗って広場にやってきた
しーちゃんが、クラリネットちゃんと吹けたよってもりちゃんに話している
もりちゃんはかけていたサングラスをはずして、さっすがーっていって、しーちゃんの肩を抱いた
しーちゃんは嬉しくて、うふふって笑った

もんちゃん先生はみず色の風船を左腕にくくってもらっている。右手にはかき氷のカップを持っている
ワッフルさんがもんちゃん先生に、もう少ししたらチューバが届く話をする
ボクのバンド、今、金管が人数少ないんだよ。よかったら一緒にやらない? ってもんちゃん先生がいう
ワッフルさんはすごく大きな声で、はいって答えた。それは喜んだふうだった
楽器なくていいから、まず練習見学にいらっしゃい
ワッフルさんは、練習場所や時間を教わった

ぼくと棒パンが、あとふたつになったジャムの店番をして座っていたら、それ両方ちょうだいっていう
顔をあげると、そういっていたのはなんと、ジョッキさんだった
ジョッキさんはカンパンさんの古い友人で、詩人で、旅行家だ
いろんなところを旅してまわって、毎年大抵、夏前の今ごろ、カンパンさんに会いにここにやってくるんだ
山を登り海に潜り、広がる砂漠を渡る。おととしは、スペインの巡礼の道を歩いた

ジョッキさん!
棒パンとぼくは、声をそろえて立ちあがった
カンパンさんがローラースケートをならして近づいてきて、おージョッキさん!って握手した
もんちゃん先生も近づいてきて、聖者が勢ぞろいしたぞっていった

40 クラリネット、宙がえり、フラフープ

バトンショーのあとは、しーちゃんとまきちゃんのクラリネット演奏だ
でてきた時ちょっと緊張しているふうだったけど、クラリネットを吹き始めるといつものしーちゃんにもどって、とてもいい音を響かせた
まきちゃんとの息もぴったりだ。テンポよく、すてきな曲が流れる

アンコールでは、コーヒーゼリーさんがでてきてマイクを握る
この曲には実は詞がついていて歌えるんです、何を隠そう、作詞したのは私です、という
作曲はまきちゃん
2人は、図書室企画の俳句の会(毎月1回活動)で知り合いになって、意気投合したんだって
コーヒーゼリーさんが曲の生まれたいきさつをにこやかに話して、しーちゃんとまきちゃんがアンコール演奏した

ことりちゃんの宙がえりショーも大成功だった
深々とおじぎをして飛び立ったことりちゃんは、まず低いところでくるっと1回まわって、そこからだいぶ高く、広場のオリーブの木ぐらいまで飛んでくるっとまわった
そして、ことりちゃんはもっと高く飛んで、姿が小さくなるぐらい高くのぼって、今度は大きく2回、ぐるんぐるんとまわった
次の出番で待っていたカンパンさんが、ことりちゃん勇気あるなあといって目を細くした
あんな高くからこの広場を見られたら、考え方かわるかもね、世界観かわるよ、きっと
見守っていたぼくたちのもとへかえってきたことりちゃんは、案外平気な顔をしていたから、みんなはもっと驚いた
すごいなあ、かっこいいなあって感嘆した

その次の、自由参加フラフープをまわそうでは、楽しい声で広場はいっぱいになった
カンパンさんは、ローラースケート姿でヘッドフォンマイクをつけてあらわれた
ゆきちゃんのバトン教室のお友だちが何人も参加してくれて、くるくるくるくるフラフープがまわりだす

ぼくと棒パンも借りてまわしてみた
ぼくは最初全然だめで、棒パンはすぐまわりだす
小さいころうまかったんだよって棒パンがいった。けっこう長いことまわせた
せーのってかけ声をかけてやっているうちに、ぼくのフラフープもまわり始めた
カンパンさんがローラースケートでみんなのまわりにやってきて、
そうそう とか、いい感じだねー、なんてスムーズ! 美しい って声をかけていく
ぼくには笑って、ナイスっていってくれた

33 灯台

きのうはとても強い雨が降って、広場は煙っているようだった
今日はきのうほどじゃないけど、まだ雨は降り続く

トマトちゃんが、わたしの大好きな洗濯がーってコップさんに大きな声でいっている
トマトちゃんは、洗濯してぴんて張って干すのが好きなんだって
でも、こう雨が続くと、お洗濯好きな感じが半分になっちゃう
風に当てるといいらしいよ
ミシンかけしながらコップさんがいう
扇風機をまわすんだよ、そしたら乾くんだって
トマトちゃんは、さすがコップさん、やってみるってにっこりした

昼に雨がやんだ
長靴をはいたしーちゃんが、ジューススタンドにやってきた
あさってのおまつりで演奏するコーヒーゼリーさんの歌をたくさん練習したからきいてほしいの
息をすう音がしてクラリネットが歌いだす。なめらかで、いい音が響く

しーちゃんのクラの音っていいなあ、ってコップさんがいう
柔らかいよね。大きな木の中にはしごがあってさ、じゃなかったら灯台の、ぐるぐるの階段をのぼっていって、一番上の踊り場に着いたとき、みたいな音だ。まだ、外にはでてなくて
トマトちゃんが、それってよくわかんないっていってから、いわれてみるとそうかもって思うのはなんでかな、って笑った

おまつり当日は、まきちゃん(一番上のお姉ちゃん)と一緒に演奏する
前奏と間奏もあるのよ、今夜も練習しよう。本番、緊張しないといいな
たくさんの人が、2人のすてきなクラリネットをきくことだろう

27 ゆきちゃんのバトン

おまつりまであと1週間になった
お天気が気になるけど、カンパンさんは大丈夫だろうっていってる

スズメさんの子どもたちが
雨ふってもするんでしょう?
雨ふりおもしろいよねー ぬれちゃうけど
でも晴れてたほうがいいとおもうなー
ちょっと風がふくと気持ちいーい
風乗りしたーい
おしゃべりして、広場をジャンプしてまわる

ゆきちゃん(しーちゃんちの2番目のお姉ちゃん)が、ジューススタンドにやってきてトマトちゃんと話している
2人は仲よしだ
ゆきちゃんは小さいときからバトンをしてる
姿勢がよくて、スタイルもいい
バトンはわたしのお友だちなのよって教えてくれた
いつも一緒で、感じたように動いてくれる
くるくるくるくる くるくるくるくる
バトンはゆきちゃんの手の中でずっとまわった

おまつりでしーちゃんのクラリネット演奏の前に、ゆきちゃんがバトンショーをすることになった
今、バトン教室で練習している曲で踊る
高く飛んだバトンが、太陽の光を反射して青い空から、ゆっくり降りてくるのを想像する

バトンショーをとても喜んだのはベーグルさんだ
ダンスがすばらしい
ゆきちゃんのバトンはほんとに、自分で動いているみたいなんだよ
踊っているときの表情は嬉しそうで楽しそうで、はじけるようだしね
それが一番難しいかもしれない

コップさんも実はベーグルさんぐらい喜んでいる
ゆきちゃんからチームソーイングに注文があったんだ
ショーで使う髪かざりとスカーフだ
コップさんはきれいな赤い、透けるような布をみつけてきた
丁寧に作るよ、気に入ってもらえますように
ミシンの音がしている