47 干しぶどう

雲が暗くなって、風が吹き始めた
夕立がくるぞってコーヒーゼリーさんがいそいでいる。雷の音が遠くできこえてきて、さらに早足になった
実は雷が苦手らしい

ぼくも家にもどって洗濯ものを取り込む。一緒に、干していたぶどうも入れる
ぶどうは干して3日たった。紫色だったかわいい粒は、茶色でしわしわになってきた

くつ下を干すまるい洗濯ハンガーにデラウェアをさげたんだ
1枝10粒ぐらいを糸で結んで長くして、縦に5つ6つつなげてハンガーの洗濯ばさみにつけた
風が吹くと、みんな少しずつ揺れる
ざるに広げるよりなんだか楽しそうなのよって、まりくちゃんが教えてくれた
できあがったら散歩に持っていこう

このごろは暑いから、夕方遅くか夜、棒パンと海まで行く
月が大きくなるときは、空は白く光って明るい
夜の海は、昼より波の音が大きくきこえる
ざーん  ざーん
ざーん  ざーん
繰り返す波の音を数えて、歌をうたったり(上を向いて歩こう)、砂浜にひっくりかえったりするんだ。砂はまだ昼の暑さを覚えていて、すごく気持ちがいい

45 風船

そして、ぼくにスペシャルなことがあった

もりちゃん(しーちゃんちの3番目のお姉ちゃん)が、家から小太鼓を持ってきてくれたんだ
もりちゃんは、小学生のとき学校の鼓笛隊に入っていた。そのとき使っていた太鼓をくれるっていうんだ
ベルトもあったから持ってきたわ
白いベルトには銀いろの金具がついている
こうやってつけるでしょう
もりちゃんが手伝ってくれる
それで、ここに太鼓をかけると、ほら、たたきながら歩ける
ぼくは、演奏だけじゃなくて、行進にも参加できるんだ
棒パンが、すごいな、小太鼓の聖者だねっていった

演奏は、コーヒーゼリーさんのドラムで始まった
トマトちゃんのトランペットの音が、広場の空にぬけていく
トマトちゃんの吹くトランペットは、トマトちゃんと同じくらい元気のいい音だ。明るくてきらきらしている
しーちゃんとまきちゃんはクラリネットの楽しい音を重ねる。2人の音がスキップしたり、とんだりはねたりして遊んでいる
ベーグルさんのサックスはかっこいい。トマトちゃんのトランペットの音をきいてそれにあわせているんだけど、それがベーグルさんっぽい音なんだ
もんちゃん先生は、腕にみずいろの風船をつけたままトロンボーンを吹いている。先生がなかでも一番嬉しそうだ

コーヒーゼリーさんが、始まる前に、音を感じて太鼓をたたいてごらんっていった
音と楽器と、曲の流れとか空気とか雰囲気を、体全部で感じるんだよ。耳できいていたら間に合わないから、いっぺんに全開にしてね
ぼくはだから、みんなの演奏する音をきいて目をつぶる。深呼吸して、コーヒーゼリーさんから譲り受けたバチを握った
いっぺんに全開にするのってどんな感じだろうと思ったけれど、やめた
たぶん、思っていたりしたら、ほんとに間に合わないんだ。入ってしまおう、この場所のこの時間の全体に入ろう。思うんじゃなくて入っちゃおう

ゆきちゃんとお友だちはバトンをまわして踊った
ガードの人たちはフラッグを高く投げた
ことりちゃんは、広場のオリーブの木にとまったりぼくの肩にとまって歌った
カンパンさんとジョッキさんは、ステップを踏んで行進した
にゃん一郎くんとこまりちゃんは、広場にならんで座って、足で地面をならした
コップさんは、スズメさんの子どもたちと演奏のまねをしながら歩いた(トランペットが一番人気)
棒パンとワッフルさんは、残っていた風船を放った
赤や白やきいろの風船は空に高くあがって、風にのって海のほうにとんでいった  

40 クラリネット、宙がえり、フラフープ

バトンショーのあとは、しーちゃんとまきちゃんのクラリネット演奏だ
でてきた時ちょっと緊張しているふうだったけど、クラリネットを吹き始めるといつものしーちゃんにもどって、とてもいい音を響かせた
まきちゃんとの息もぴったりだ。テンポよく、すてきな曲が流れる

アンコールでは、コーヒーゼリーさんがでてきてマイクを握る
この曲には実は詞がついていて歌えるんです、何を隠そう、作詞したのは私です、という
作曲はまきちゃん
2人は、図書室企画の俳句の会(毎月1回活動)で知り合いになって、意気投合したんだって
コーヒーゼリーさんが曲の生まれたいきさつをにこやかに話して、しーちゃんとまきちゃんがアンコール演奏した

ことりちゃんの宙がえりショーも大成功だった
深々とおじぎをして飛び立ったことりちゃんは、まず低いところでくるっと1回まわって、そこからだいぶ高く、広場のオリーブの木ぐらいまで飛んでくるっとまわった
そして、ことりちゃんはもっと高く飛んで、姿が小さくなるぐらい高くのぼって、今度は大きく2回、ぐるんぐるんとまわった
次の出番で待っていたカンパンさんが、ことりちゃん勇気あるなあといって目を細くした
あんな高くからこの広場を見られたら、考え方かわるかもね、世界観かわるよ、きっと
見守っていたぼくたちのもとへかえってきたことりちゃんは、案外平気な顔をしていたから、みんなはもっと驚いた
すごいなあ、かっこいいなあって感嘆した

その次の、自由参加フラフープをまわそうでは、楽しい声で広場はいっぱいになった
カンパンさんは、ローラースケート姿でヘッドフォンマイクをつけてあらわれた
ゆきちゃんのバトン教室のお友だちが何人も参加してくれて、くるくるくるくるフラフープがまわりだす

ぼくと棒パンも借りてまわしてみた
ぼくは最初全然だめで、棒パンはすぐまわりだす
小さいころうまかったんだよって棒パンがいった。けっこう長いことまわせた
せーのってかけ声をかけてやっているうちに、ぼくのフラフープもまわり始めた
カンパンさんがローラースケートでみんなのまわりにやってきて、
そうそう とか、いい感じだねー、なんてスムーズ! 美しい って声をかけていく
ぼくには笑って、ナイスっていってくれた

35 おまつりのはじまり

雨がようやくあがって青い空が見え始めると、急に暑くなった

今日は、スズメさんの子どもたちがリボンやスカーフをつけておしゃれしている。コップさんからのプレゼントなんだ
小さなおまつり宣伝隊員さんたちは
このふわふわのリボン、すてきー
もしかして、ゆきちゃんの髪かざりとおそろい?
何色えらんでもいいの? 迷っちゃうな
みてみてー
わたしもみてー
コップさんから大喜びで受け取る

おまつりの日はいい天気になった

ジューススタンドのパイナップルのフラッグが元気よく揺れている
トマトちゃんはむだのない動作で準備する
コップさんは氷や備品のチェックをしながらおもしろいことをいって、トマトちゃんを笑わせている

コーヒーゼリーさんの占いテーブルは朝から大人気だ。、急きょ、相談時間はひとり10分までになった
それでも順番待ちで行列ができるから、棒パンとぼくでイスを運んできて座ってもらった

となりで、ことちゃんは家の倉庫から持ってきたビニールシートを広げた。似顔絵描きじゃなくて、大きな紙を置いて、きた人に絵を描いてもらうことにしたんだ
絵の具やペン、チョーク、色鉛筆、クレヨン、いろいろ用意していいて、どれを使ってもいい。絵は大きく描いても小さく描いても、絵じゃなくて字でも線でもいい
自分の好きな事か、好きなものを描くといいですってことちゃんがいう
好きな人の事を思って描いても、きっとすてきな絵になります

空の下で絵を描くのっていいなあってにゃん一郎くんがいう
それから鼻をくんくんさせてあたりをにおった
何のにおいだろう? いいにおいがするよ。イチゴのジャムみたいだけどちょっとちがうな、なにかな
みどり色のサインペンを握ったまま、にゃん一郎くんはもう一度においをかいだ
わかった、かき氷のイチゴシロップだ。今日はかき氷屋さんもあるんだね
にゃん一郎くんは、持っていたペンのキャップをはずして、きゅっきゅっって音をたてて描きだした
カナブンみたいな、みどり色の虫を大きく描いている

近くでこまりちゃんが、よおしって小さくいって、太い筆に絵の具をたっぷりつけた
青やみどりや白、きいろ、パレットの上の色がまざって、だんだんに絵があらわれてくる
海だ 

30 占いテーブルのとなり

コーヒーゼリーさんの占いは、かなりあたる
いつかトマトちゃんがみてもらったら、あんまりなんでもあてるので驚いて、ほかの人には内緒よってお願いしていた
おまつりの日はコーヒーゼリーさんの占いテーブルがでる
行列ができるかもしれない

ことちゃん(しーちゃんのひとつ上のお姉ちゃん)は絵を描くのが上手だ
おまつりの日バイトが休みになったから、占いテーブルのとなりに座って似顔絵描きをしたいな
ほんとは最後に、コーヒーゼリーさんに恋占いしてもらいたいの
ことちゃんの前にも行列ができると思う

ことちゃんが描く線はとてものびやかだ
こんなにきれいな、優しい線があるんだなってデッサンしているのを見て思った
毎日の景色
ツバメさんが飛んでいく空
海からのぼる太陽
羊丘の細い道
暗いだけじゃなくて明るい影
流れていく雲
いろんなものを描きだす